「あぁっ!」
彼女の小さな絶叫。
おそらく、彼女は絶頂を迎えたのだと分かった。
僕ももうそろそろ限界だ。
さっきから、僕は必死に我慢しているような状態だった。
先端から、ぎりぎり噴き出さないようになんとか押しとどめている。そんな感じだった。
つけるかつけないかで、これほど変わるのか、と僕は驚いていた。
今までだって、彼女との体の相性は抜群だと思っていた。
これ以上の快感なんてないと、本気でそう思っていた。
けれど、この快感を知ってしまった今、僕は自分のしていた、とんでもない思い違いを知らされた。
気持ちいいなんていうものじゃない。
そんな言葉ではおこがましいくらいの快感が、僕の腰から脳天に向かって、さっきから何度となく突き上げている。
いつまでも、こうして交わっていたい。
本気でそう思ってしまうくらい、それは気持ちのいいものだった。
その感覚は、彼女と交わるときに少なからずいつも抱くものなのだが、今日のそれは、一段と強烈だった。
彼女の熱を、直接肌で感じられる。
彼女の欲望を、そのまま感じられる。
その幸せも、きっとその快感を加速させているに違いないと思う。
この快感に、ずっとおぼれていたい。
そう思ったけれど、僕の方にも、絶頂が訪れた瞬間、すんでのところで理性が蘇ってきた。
「あ、あぁぁっ!」
僕は彼女の中から、たけり狂う欲望を引き抜いた。
そして、素早くネグリジェの裾をまくり上げて、彼女のお腹の上でそれをこすった。
一秒としないうちに、それは真っ白な液体をだばだばと噴出させた。
まだ僕の中にこんなに欲望が残っていたのか、と呆れてしまうくらいの量がそこにはこぼれていた。
あぶない、もし中に出してしまえばきっと、安全日だとか関係なくなってしまっていただろう。そんなことを、ぼんやりと思った。
「ご、ごめん、こんな汚しちゃって……」
「いいんです、気持ちよかった、ってことなんですよね」
「うん、たぶんその通りだよ。とても、気持ちよかった」
「ほんとですか?」
「本当だよ。今までで一番、気持ちよかった」
「それなら、よかったです」
彼女は、にこりと僕に向かって微笑みかけてくれた。
彼女の頭のすぐ上にあるティッシュを取って、僕は彼女のお腹の上にぶちまけられたミルクをふき取った。
ティッシュの上で、生々しく光るそれが、彼女に絞り出された僕の欲望なのだと思うと、言いようのない幸せを感じた。
「朝から激しいことさせちゃって、ごめんね」
「いいんです。私もしたかったですから」
彼女は、少し疲れたような笑みでそう言った。
僕もきっと、そんな風な表情になっているのだろう。
とても気持ちよかったけれど、さすがに疲れもある。
腰のあたりには、心地よい疲労がたまっている。
「朝食を食べる前に、シャワー浴びようか?」
「そうですね。でも、それからきっと、出かけましょうね」
「うん、もちろん」
ベッドからようやく起き上がった僕たちは、二人で順番にシャワーを浴びた。
体の汗をさっと流すだけだったから、二人で合わせてもほんの十分ほどで済んだ。
先に浴びさせてもらった僕は、彼女がシャワーを浴びている間に、朝食を作り始めた。
今朝のメニューはハムエッグとトースト。
昨日からそれを食べようと二人で決めていた。
それほど手間はかからないけれど、贅沢な気分になれる。
それに野菜ジュース(これは出来合いのものだ)を付ければ完璧だ。
「あ、浩太郎さんありがとうございます」
風呂場から出てきた彼女は、首元をバスタオルで拭きながらそう言った。
彼女は下着と薄手のアンダーシャツを着ているだけだった。
その無防備な姿に、僕はまたどきりとさせられてしまった。
でも、さすがに二回濃厚なものを出したからかは分からないが、固くそそり立つようなことはなかった。
「ううん、もう少し待っててね」
「はい、何か手伝えることありますか」
「じゃあ、テーブルの用意をしてて」
「わかりました」
彼女はメガネをかけながらそう答えて、テーブルを片付け始めた。
そして、ちょうど彼女がテーブルを片付けて用意などをしてくれた時に、朝食の方も出来上がった。
おいしそうな湯気が上がっている。やっぱり、いい一日を始めるのにはピッタリのメニューだったようだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、どうぞお召し上がりください」
僕たちは手をあわせてから食べ始めた。しばらくして、僕は思いついていった。
「そうだ」
「はい?」
「今日はせっかく天気がいいから、遊園地でも行こうか」
「ああ、良いですね、行きましょう」
野菜ジュースを一口飲んだ彼女は、そう言ってにっこりとほほ笑んだ。
僕も彼女も、クールに見られがちだが、そういう遊園地みたいな場所が好きだった。
非日常に浸れる空間というのは、意外と少ないものだ。
たまには日常を忘れて遊ぶ日もないと、日常を頑張れなくなってしまうのだ。
それに、僕たちが初めて直接つながった記念日にも、そういうデートは、ふさわしいと思う。
そうだ、今日はきっと、いっぱい写真を撮ろう。
僕は口には出さなかったけれど、なぜかその思いが彼女にも伝わっているような気がした。
「あ、でも遊園地に行くなら、早く用意しないといけませんね」
彼女は幸せそうにそう言って、またにっこりと笑った。
「そうだね、楽しみだ」
時刻はまだ八時。
この幸せな一日は、始まったばかりだ。
きっと、この日を、特別な一日にしよう。
僕はそう思いながら、トーストをかじった。