マニアック

オンラインセックスのすゝめ

金曜日。私は分かりやすく浮かれていた。

今日は彼とのオンライン飲みの日である。

スタートの時間は夜八時から。

お互い仕事が終わって、家でゆっくりし始められるのがそれくらいの時間からだということだったから、その時間になった。

今日は彼としっかり顔を合わせて話ができる機会だから、と思って先に夕飯は軽く済ませた。

そして、おつまみ程度の軽いお菓子とお酒を用意して、パソコンの前に腰を下ろした。

『そろそろですが、大丈夫そうですか?』

後十分で八時になろうか、というところで彼からメッセージが来た。彼のこういう律義なところが、とてもいいと思う。

『大丈夫です。Shinさんも大丈夫ですか?』

『僕ももうそろそろ大丈夫です。少し早めに始められそうですね。』

彼のメッセージの末尾に、にっこりと笑った絵文字がついていた。

彼とのメッセージが始まってから二、三日経った頃から、こういう絵文字が付き始めた。

はじめのころはスタンプもほとんどないくらいだったが、打ち解けてくれたのだろうな、と思うとその変化が嬉しかった。

それからすぐに、彼からビデオ通話用のURLが送られてきた。

私ははやる気持ちを抑えながら、パソコンでそのURLを開いた。

画面の向こうには、彼がいた。

「あ、映りましたか?」

「はい、映ってます。大丈夫ですか?」

「こっちも大丈夫です」

彼がいる。話している。

思っていたよりも彼の声は高くて、よく通る声だった。

でも甲高いというのではなく、耳にすっと入ってくるような感じで、聞いていてとても心地よかった。

「初めまして、Shinです」

「こちらこそ初めましてRinです」

私たちは挨拶もそこそこに乾杯して話を始めた。

メッセージのやり取りでも思っていたが、私たちは趣味がよく合う。

きっと物事の見方が良い意味で似ているからなのだろうな、と思った。

お酒の力も借りているとは思うけれど、私たちの話はかなり盛り上がっていた。

「こんな風に初対面の人とオンラインで飲むの初めてなんですけど、結構いいですね」

飲み始めて一時間ほど経った頃だろうか。

彼はほんの少し赤らんだ頬で(彼はお酒にあまり強くないというのもメッセージで教えてくれていた)、そんなことを言ってくれた。

「私もそう思ってました」

きっと、私の頬も少し赤くなっていると思う。

私も彼と同じようにお酒に強くないことはあると思うけれど、頬が赤らんでいる理由がそれだけではないことは私が一番、よくわかっている。

「あー、一緒にいられたらなぁ……」

彼は、ふとそんな一言をこぼした。

「一緒にいられたら、どうしたんですか?」

私はなぜか、こんなことを聞いていた。

私が何を求めていたのか、それは自分でもわからなかったけれど、きっとその時には、彼のことを強く求めていたのだろうと思う。

抱きしめたい。

私はそんなことをふいに、強く思っていた。

そんなときだった。

「僕、Rinさんのことが好きだなぁ」

そんな言葉が、ポツリと聞こえてきた。

ともすれば聞き間違いかもしれない、そんな風に思ってしまうくらい、ささやかな声だった。

私がはっと驚いて画面を見ると、彼の口元には、寂しさと、情熱が浮かんでいた。

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