恋のはじまり

私のすべてを見てほしいの

僕は彼女の口をふさいで、それからまた激しく彼女の中をかきまぜた。

体勢を変えたおかげか、さっきよりもより深くまでつながれているような気がする。

根元まで入り込むことができるからか、彼女に包まれているような感覚がより強くなった。

「気持ちいいです、先輩」

「私も」

彼女も、恍惚に顔をゆがめている。

こんないやらしい顔の先輩は、初めて見た。

今まで見ていた先輩がほんの一部だと、僕はこの時初めて気づいた。

これから、もっといろんな表情を見たい。

そして、僕はもっと彼女のいろんな表情を描きたい。

そう思った。

「先輩、そろそろイきそうです」

「ゴムつけてるから、そのまま出していいよ」

「はい」

それから僕は、腰の動きをより激しくした。

肉と肉がぶつかり合う音がより大きく教室の中で響いた。

「ん、ん、んん……」

僕は彼女の奥を突いたまま、絶頂を迎えた。

「あんっ……」

彼女も、吐息を漏らしながら、上半身を支えている僕の腕に体重を預けてきた。

「先輩も、イっちゃいましたか?」

「うん……」

僕も、先輩も息が切れている。

最後はさすがに激しかった。少しだけ腰が痛い。

「先輩」

僕はつながったままの状態で、想いを伝えておかないといけない、と思った。

「僕はこれからも、先輩を描きたいと思います」

「え?」

「僕、先輩のいろんな表情が見たいです。だから、その……」

「わかった」

先輩は、まだ言葉がまとまらない僕に向かって、やさしく微笑んでくれた。

「これからも、私を見ていてね」

「はい、もちろんです」

僕は彼女の中から、しおれたペニスを抜いた。

そこには、僕の体から発射された種がいっぱいたまっていた。

さすがにこれを学校に捨てて帰ることはできない。

もし見つかったら言い訳のしようがない。

そんな風に考えているときに、先輩が大きな声を上げた。

「あーっ!」

「ど、どうしたんですか、先輩」

「絵!忘れてた!」

「あ……」

そういえば、先輩が僕のモノをいじり始めた理由は、絵を描くためだった。

それをすっかり忘れて、情事に没頭してしまっていたのだ。

「今から描きますか?」

「うん、もちろん」

「僕ちょっと疲れたんですが」

「でも、私は美術部だからね」

先輩は、まだロッカーの上に座ったままで、そういってぐっと親指を立てていた。

その恰好で言われても説得力はあまりないんだけどな、なんて僕は思ってしまったけれど、そんなことはもちろん言わず、元の場所に戻って、ポーズをとった。

まだ完成していないとはいっても、あと少し描けばいい具合に書き終わるだろう。あと五分くらいならこうしてポーズをとっていられる。

「あ、そういえば」

ロッカーから降りて椅子に座った先輩が、僕に話しかけてきた。

「どうしたんです?」

「これからは、先輩って呼ぶの禁止ね」

「え!?」

「今度からは美空って呼んでね。私も渉って呼ぶから」

「じゃあ、美空さんで……」

「仕方ない」

僕が渋々妥協すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

これからの僕たちの物語は、どんな風景を描いていくのだろうか。

どんな表情を描いていくのだろうか。

僕はこれから、それを自分たちで描いていくことができることが、とても嬉しかった。

「できたよ、どうかな?」

ほんの三分ほどで絵は完成した。

先輩は、少し照れ臭そうな笑みを浮かべながら僕を呼んだ。

「うまいです、せんぱ……」

「先輩じゃない」

「み、美空さん……」

「よろしい」

僕たちは、目を合わせて笑いあった。

- 了 -

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